今は亡き尊敬する大女優MMさん

今週のお題「激レア体験」
以前、その道の方に対峙した事や有名人と言われる方の素顔などのお話を書いてしまったし、舞台上の失敗、ハプニングなんかも書いたような……激レアって何だろうと、思いを巡らせ探した。

旦那がずっと好きだった岡江さんが亡くなってしまった事もあり、ご冥福をお祈りするばかり。御家族の無念は想像もつかないほど痛い。
また才能豊かな方の早すぎるお別れだ。

私が好きだった女優さんは女優業を全うし、９０歳を超え亡くなられた。
長年舞台を大事にされたが、映画にテレビに大活躍され、ジャニーズの若者にも好かれた大女優MMさん。
幅広い演技力だが、コメディ演技が大好きだった。
そうだ、ドリフで共演の志村さんがかつて｢MMさんはアドリブ好きだ｣って言ってた。
天国で、何でこんなに早くこっちに来てしまったの～って志村さんはバシバシ叩かれ、その顔は涙で溢れていることだろう。

私もシリアスよりコメディ、喜劇の戯曲の舞台が好き、出来れば、MMさんのような芝居が出来たら、アドリブにも絶妙な受けができたらいいなと思っていたが、全くもって足元にも及ばずであった。

大好きでしたが、だからと言って、芝居の世界に入るまでも、入ってからも大ファンで出演するものすべて見逃さず、というような存在ではなかったです、実際にお会いするまでは。

そうです。

実際にお会いしています、何度も。

でも芝居の世界でお会いしたことはありません。

昔々、あるところに、田舎から出てきた女の子が売れない舞台女優をしながら、早朝からアルバイトに勤しんでおりました。

そう、以前もブログに書きましたが劇団では食べていけません。特にうちの劇団は。
そのため、お休みする融通をきかせてもらえるバイトを見つける、休む度にクビになって、また新しいバイトを探す、などの苦労がともないます。
私は幸い？器用貧乏です。何でもそつなくこなしますが秀でて飛び出る事はなし。劇団養成所の時代から始めた派遣でホテルのレストランウェイトレス業が長く続いており、派遣会社が変わっても、異動しないで欲しいと言われるまでに。

高級ホテルチェーンのコーヒーハウス、早朝から朝食、ランチタイムまでが基本勤務で、舞台の本番一週間前からはまとまった休みをもらうなど、融通をきかせてもらっていました。
近くには大きな劇場やテレビ局があるため、海外も国内も有名人の方が宿泊する事も多々。
ほんとにセキュリティ上危ないような有名人はここにはあまり来ずに、ルームサービスがほとんどだったようです。
それでも、来る方もいて、堂々と素っぴんで朝食に来られ、フランクさに驚き、その素っぴんはみごとに綺麗だった女優さんも拝見した事も。

中には有名人だからと、メニューにないものをわざわざ言われる方｢あれはないのか｣｢○○が食べたいからシェフに作らせて｣とソファ席で、付き人を何人もつけてふんぞりかえって座って食事する方も。

そんな中、大女優MMさんは近くの劇場で座長公演約一ヶ月。その間、当ホテルに滞在。
我がコーヒーハウスに朝食をとりに来られます。お一人で。

案内される席に素直に座られ、｢おはようございます｣に｢おはようございます｣
メニューを｢ありがとう｣と受けとられ、メニューにあるものを｢これをお願いします｣
｢お待たせしました｣と持っていくと｢ありがとう｣
静かに、きれいに食事され、｢ごちそうさまでした｣と伝票を持って席を立たれます。
出入口のキャッシャーで会計される姿、キャッシャーのカウンターはさほど高くはないはずですが、前に立たれるMMさんはカウンターからチョコンと頭だけ見えているような、小さくきゃしゃですごく可愛らしい姿。
お食事された後のテーブルを片付けながら、キャッシャー前の後ろ姿が可愛くて、いつも笑顔になりました。
服装も華美ではなく、ごくごく普通で、ごくごく当たり前なのかもしれませんが、きちんと挨拶には挨拶をかかさず、女優オーラも出さず、MMさんだと分かっていると分かってて、他のお客様と何一つ変わらない態度、空気を大事に、お客様とウェイトレスとして約一ヶ月、一期一会、素敵な出会いでした。

あれほどの有名人でいつもテレビで観ていた方の目の前のごく当たり前で且つ丁寧な可愛らしい様子を知り、大ファンに、いや違う、人間として大尊敬する方になりました。

今、天国で下界をどう眺めてらっしゃるでしょう。職業や立場は関係なく、人としてごく当たり前に、ですね。

これ、激レア体験ですかね。
我が家の悩める売れない役者は、本日の晴天に、我が家の箱庭に息子と自ら作った『秘密基地』(小さな小さなツリーハウス)に、また息子と小さな縄ばしごを作り付け、満足げ。
鬱には良き薬、外気を浴び、木上で母のおにぎりで息子と昼御飯、そして、昼間から、ビールとつまみも差し入れました。

不安が蔓延るこの世の、小さな小さな平和の一時に、上界の尊敬する大女優さんは涙目から笑顔に戻って頂けたでしょうか。